懸賞をかけて梁鵠をとらえる
かつて曹操が孝廉に挙げられ、京師(みやこ)に上った時、彼を洛陽令にしようという話があった。
しかし書選部尚書の梁鵠が反対したので、北部尉にすることに決まった。
曹操はこれを聞き、梁鵠をうらんだ。
その後董卓が京師に入り、天下が乱れたので、梁鵠は難を避けて荊州の劉表の所に行った。
しかし劉表の死後、荊州は曹操によって平定されてしまう。
荊州に入った曹操は、懸賞をかけて梁鵠の行方を探した。
程なくして梁鵠はつかまり、曹操の前に引き出された。
曹操は梁鵠を見ると、おおきな声で笑った。その笑い声に怯えて、梁鵠は部屋の入り口に
立ったまま動けなくなってしまった。
すると、曹操は自ら梁鵠を迎えに出、自分の手で梁鵠を縛っている縄をほどいた。
梁鵠も、その場にいた部下達もわけがわからず、びっくりした眼で曹操をみつめた。
「梁大人、どうして懸賞までかけてあなたを探し出したか分かるかね?《
梁鵠は頭を下げて言った。
「分かっております。あの頃わたしは人物を見極められず、丞相の前途を妨げました《
「むかしのことだ。あの頃はたしかにうらんだ《
「罪を認めます。どうか曹丞相がお裁きください《
「わたしが裁けば朊するか?《
「朊します。わたしの罪は万死に値します《
「では判決を下そう。軍仮司馬に任ずる《
梁鵠は曹操が真面目に言っているのかふざけているのか判断がつかず、困惑した
顔で曹操を見たまま、口を開かなかった。
曹操は彼がまだ分かっていないと見て、笑って言った。
「梁大人、わたしはあなたの書に感朊している。懸賞までかけて探したのは、
ただ呼んだだけでは来てくれないのではないかと怖れたからだ《
罪を問われないばかりか官職まで与えられるというので、梁鵠は感動して、礼を取りながら言った。
「ありがとうございます。丞相が捕吏をおつかわしになったものですから、
びっくりしてしまいました《
そして一緒になって笑った。
この後、梁鵠は曹操に忠誠を誓って働き、曹操のために多くの作品を書いた。
曹操は彼の書を書斎や、仕事場や、寝室にまで掛けて、いつも鑑賞していたのだそうだ。
*こちらは史書の記述をベースにしています。つまり半分ぐらい本当です。
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