(「中国民族史」という本の部分訳です。)

文字の発明以前、 人々は口伝で豊かな歴史伝説を語り継いできた。
これらの伝説の内容は、 人類の起源からはじまり、氏族、部落と部落集団の首領の活動事跡、各民族共同体の関係、 社会経済や文化生活など多岐に及ぶ。
伝説として語られる範囲は非常に広く、 内容も豊かで期間も長い。
それゆえに「伝説時代」として、ひとつの歴史区分と 認識することが出来る。

伝説の内容を分析すると、原始社会の発展段階の中 で、黄河流域と長江流域に住みついた原始氏族のありかたを再現することができる。
年代としては今から5、6千年前が、各民族の共同体が生まれ、発達した時期である。

中国各民族の原始氏族社会は、母系制と父系制のふたつの段階を経て発展する。
伝説中の「三皇(さんこう)」「五帝(ごてい)」は原始氏族社会の重要人物であり、 彼らの活動と業績は、社会の発展に大きな影響を及ぼした。
伝説には真実でない部分 も多々あるが、それは古代人の英雄の業績に対する人々の追憶の念を反映したものであり、 我々中国古代史を研究する者にとって、(中国古代民族史も含み)特に文字成立以前の 原始社会研究のための貴重な資料となる。

古史中の「三皇」「五帝」は、誰を 指しているかはっきりと定まってはいないが、一般に「三皇」は燧人(すいじん)氏、 伏羲(ふくぎ)氏、神農(しんのう)氏、「五帝」は黄帝(こうてい)、センギョク、帝堯(ていぎょう)、舜(しゅん)、禹(う)とされる。
「帝」は本来氏 族社会の父系制時代に、部落と部落連盟集団の首領を指すことばであった。
伝説を 解析すると、原始氏族社会が解体し、階級社会へ向かうまでの過渡期に、黄河流域と 長江流域、及びその周辺地域に、すでに炎帝(えんてい)、黄帝(こうてい)、東夷( とうい)、蛮夷(ばんい)、夏(か)などの民族共同体が形成されていたことが分かる 。彼らは中国民族の雛型である。
中国に存在するさまざまな民族の発展の源流を辿 ると、かならずこれらの民族のうちのどれかにつながりがある。

参考文献: 中国民族史(上) 第一編第一章第五節「中国民族的伝説時代」
民族出版社  江応梁主編 1990年



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