なかなか街の散策が出来ないので、短い朝の集合までの時間にホテルを出て、 近くをぶらついてみる。
またまた同じツアーのおばちゃんに見つかって、ついてこられた。

新聞雑誌とスナックと飲み物類あたりを置いている売店を見つけたので、物色する。
お目当ては瓜子(ぐあず)。かぼちゃやスイカの種に味付けされたもので、 殻を歯で割って中身を食べる。売店でもあるかと思ったが、甘かった。

諦めてホテルに戻ろうとすると、ちょうどお茶売りのおんなのこが通りかかった。
青い民族衣装を着て、天秤棒を担いだ少数民族のスタイルは、お茶売りと相場が決まっている。
おばちゃんたちには珍しかろうと、呼び止めてお茶を買うことにする。

籠の中には何種類かのお茶の葉が入っていて、ものによって値段が違う。
販売は50グラム(1リャン)単位、天秤で量って紙袋に詰めて売ってくれる。
外国人向け土産物屋の1/5以下のお値段で売っている上に、交渉すれば値下げもしてくれるが、 こういう人たちはさしてぼってはいないので、言い値で買うことにする。

一番上等の、葉が巻いているお茶を100グラムばかり買った。これはそのままコップに入れて お湯を注ぐと、葉がほどけてきて、何度もお湯を注ぎ足して飲むことが出来る。
おばちゃんたちは分からないなりにやたらと買った。いきなりばか売れして売り子は当惑気味だったが、要領を得ない通訳にも とりあえず付き合ってくれた。

私たちが外国人だということに気付いて、上等なホテル前では時々見かける絵売りの おじさんが寄ってくる。
そんなに安くはないが、べらぼうに高い観光地のみやげ物掛け軸なんかよりはずっと安い。
ついでに神戸あたりでよく絵を売っているヨーロッパ系外国人の商品よりは 絵がいい。
画学校の先生だと言っていた。
買ってもいいかなと物色するが、これと思うものが見つからないうちに、そろそろ出発の時間だとおばちゃんに急かされる。
あまりうろちょろしているヒマはないのだった。

碑林(多分…)碑林へ。
いろんな時代の石碑を、風化しないように集めて保存してある。 保存の歴史もこれまた長い。
ガイドさんの解説を放ったらかして自分に興味のあるところを見る。
刻まれた『論語』に、たまたま何晏の名前を見つけた。
何晏。三国志の冒頭に出てくる何進の孫。
某漫画に結構インパクトあるキャラクターとして登場しているので、知っている方も多いとは思うが、一応説明しておく。
何進は皇后の兄で、元は屠殺業だったのが妹のおかげでいきなり偉くなって、 馴染めない政争の中あっさり殺されてしまうという人物だ。
そのむすめがどっかで未亡人になったのを曹操に拾われ、その連れ子何晏は 曹操の子供たちとともに育てられる。
『論語』に注をつけて、それが現在まで残っているというのだから、とても頭はいい。
が、自分の容姿ばっかり気にしてみたり、麻薬っぽいものに手を染めたり、 果ては政争を巻き起こして死んだりと、やけにアクの強いおとこである。

ガイドさんが、関羽がどーとか言っているのが聞こえた。
彼女の前には竹っぽいものが描かれた石碑があって、これは関羽が曹操に捕まっていた時、 主人である劉備にあてて自分の思いを書いたもので、見咎められてはいけないから 竹の葉に見えるように文字を書いたんだ、とのこと。
おいおい関羽の直筆なんか残っているわけないやろ、と思って、石碑の説明文を 確認すると、やはり随分後代の人が関羽に仮託して作ったものらしい。 ちゃんとそこも説明してくれないと。

そう言えば確か、ここには本物の三国時代の遺物もあったはず、と思い出して探す。
実際に三国からそのままの形で遺されている、というものは、中国全土を探してもあまり見つかっていない。古いし短い時代だし、その上戦乱ばかりだったのだから当然と言えば当然なのだが。
さっきの何晏の名も、後代の人が彼の文章を刻印したものだ。

司馬さんちの碑石碑は大体時代順に並んでいるので、比較的すぐ見つかった。
司馬仲達のとーちゃんだったか、じーさんだったかの墓碑。
右から3行目の、真ん中二文字が「司馬」。
思ったより保存状態も良好だった。
しかし曹操よりもさらに憎まれ者かもしれない男のじーさんのじゃ、 他の観光客には受けないだろう。

碑林も商売をする。拓本を使った掛け軸だ。
みんなびっくりするほど買う。1万から5万ぐらいまで。
一番人気はやはりあの竹。日本人の三国志好きは商売になるという感じだ。
ここにはなかなかの名書も多いのだが、あんまり大切なものからは そう何枚も拓本を取れない。
軸になっているのは有名な石碑のレプリカを作って、そこから取った拓本か、そんなに 価値の高くない石碑だけど本物からの拓本か、どっちかだ。

骨董品がいくらか置いてあった。そんなに時代が古いものではないが、それ故に かえって本物っぽい。
こういうものは欲しいわけだが、残念ながら手の出る値段ではなかった。

帰りは上海経由。
上海空港はクセモノだった。
搭乗口近くに本屋があって、また外国人の好みそうな、グラフィック系の 歴史モノ豪華本のたぐいがざらざらと並べられているのだ。
私みたいなのに有り金はたかせようという魂胆か。
しかしこういった本は、街中の小さな本屋にはあまり置いていないし、 大きな本屋のあるところは限られているので、これはとっても 便利ではある。
昔の写真が集められた本を1冊買った。今度は大金はたくつもりで来よう。


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